7月末に区内最大の婦人靴問屋が倒産し、そのあおりで現在までに中堅のメーカー数件が倒産しています。負債額は100億円近くに上っており、職人への工賃、材料屋の売掛金がこげつき、地域経済に大きな打撃を与えています。負の影響を最小にするとともに、台東区最大の産業・皮革産業に対する政策のあり方が根本から問われています。
日本共産党台東区議団と小柳しげる茂都政対策委員長は、工賃が支払われなくなった区内の靴職人と関係業者を訪問しました。
「7月は夫婦寝ずに働き、79万円の工賃になっていた。これがもらえなければ家賃すら払えない。ここ数か月、生産量が増えてきただけに、打撃は大きい」と、ある底付け職人はぼう然としていました。
あるメーカーは「まだまだ飛ぶ(倒産)メーカーが出るだろう」と、話しています。
民間信用調査会社・東京商工リサーチは今回の倒産を受けて、特別調査と分析を行いました(8月19日付公開「靴業界動向調査」)。靴業界の倒産件数は2013年度から増勢になっており、今年度ピークに達するだろう、としています。

皮革履物産業は、問屋やメーカーの倒産が繰り返され工賃が払われないこと、長時間で過重な労働なのに工賃は安いことから、後を継ぐ職人が激減しています。産業のおおもとを支える職人を細らせてはなりません。
建設業であれば、賃金確保法や建設業法で、取引先や会社が倒産しても、一定の賃金を元請けや公的な機構から支払わせることができます。しかし革靴職人の出来高工賃は労務費には当たらない一般債権として扱われ、多くの場合支払われず泣き寝入りで終わってしまいます。
東京都は低賃金の家内労働者のために労働金庫と提携した生活資金融資があり、応急的な生活資金に上限70万円まで貸し付ける制度があります。これは工賃未払いが対象になっていません。そもそも、台東区にはこれに相当する制度がありません。

革靴製造の苦境の根源は、86年の輸入割当制から関税割当制への移行による輸入自由化、WTO発足に伴う95年以降長期にわたる関税率の引き下げにあります。輸入靴が激増したため、この30年で台東区の工場数・出荷額とも5分の1以下に激減しました。
環太平洋連携協定・TPPへの参加が、さらに靴産業に打撃を与えることは明らかではないでしょうか。

近年のこの産業の苦境は、長年培ってきた製造・卸売・小売という分業体制が崩れたことが拍車をかけています。先の調査では、大手小売業の販売額は上昇する一方、製造は横ばい、卸は後退している。大手小売業が企画製造から販売まで手掛けるようになったこと、インターネット通販の台頭が卸を圧迫していることなど、「従来型の大量生産、大量出荷による業界システムは通用しなくなっている」と分析しています。
今回倒産した婦人靴問屋、連鎖倒産した中堅メーカーとも、このほど、東証2部上場の中国資本の大手免税店会社に、負債額の数十分の一、数分の一で「事業譲渡」した、と報道されています。台東区の革靴産業が、大手小売量販店の支配の下で生き残っていくことができるでしょうか。
今年3月に区が行った「(仮称)台東区産業振興計画策定のための実態調査報告書」では、製造業の課題として「価格競争に陥らない製品の高付加価値化」を挙げ、「製品企画機能を有している事業者に黒字比率が高い」としています。
台東区は、従来のような事業者間の取引支援から、消費者との結合への支援に、舵を大きく切りなおすべきではないでしょうか。産地としての台東区ブランドの魅力確立に力を注ぎ、その魅力を消費者に直接発信することです。若いものづくりの力が集まってきている今がこそチャンスです。


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